葉歩花庭は、早稲田で開業して3年、神楽坂へ移りもうすぐ2年。
今まで沢山のお客様に応援して頂いて今年は5周年を迎えます。
この5年間の素晴らしい出会いに日々感謝しています。
店に足を運んで下さるお客様、店に関わって頂いている方々から
こんなにも沢山のことを教えて頂けるのは開業したからこその事。
いわばお客様は僕の先生なのです。だから店は毎日が勉強の場。
お客さんが席に着かれる。とても緊張する瞬間。
お客さんも緊張しているのでしょうか。
そんな時、何か気の利いた一言が言えたらといつも思うのだが…。
言葉のヘタな僕は料理に想いを込めるしかできないことが多い。
そんなだからいつもお客さんの方に自分がもてなされているようで頭が下がる思いだ。
様々なお席が葉歩花庭では繰り広げられる。
御両親を招待なさっている御夫婦…喜んでもらえますように。
そして自分も親孝行しなくてはと気付かされる。
お祝いの席の主役の方の晴れやかな横顔に僕も何か添えたくなる、
何かを成し遂げた人は皆いい顔をしている。
接待のお席では、帰り際に「今度は奥さんを連れてくるよ」と言って下さるお客さん、
嬉しい瞬間だ。
大切な人を連れて来たいと思って頂けるのは何より嬉しいし、男としてカッコいいなと思う。
調理人としては27年間修行してきたが、色々な店で酒をかたむけながらゆっくり食事をしたり
お世話になった人をもてなしたりということは、ようやくこの歳になってから始めたことなので、
お客さんの方がずっと店に慣れていて、店の楽しみ方を知っている。
酒と料理の相性や人のもてなし方、いい時間の過ごし方など全てお客さんから学ばせて頂いている。
勤めていた時代は毎日お客さんの顔を伺うことができないくらい
奥の厨房で食材に向かっていた。
開業しなければ出逢えるはずもなかった様々な職業の方々と過ごせる時間。
僕の作った料理を召し上がる姿を目の当たりにできることは幸せなことだと思う。
またそれを経験したいという思いが開業の動機だった。
でもそれ以上のことをお客さんから頂いている。
早稲田時代からのお得意様で神楽坂に移転の際、葉歩花庭の良い面、悪い面を分析して、
直していく点、他店が盗めない部分を磨いていく事の大切さを教えて下さったYさん。
僕は葉歩花庭の父だと思っています。言いにくいことも言ってくれることに思いやりを感じている。
また苦しいときに「何曜日が暇なの〜?」と聞いて、
その曜日に毎回様々な方を連れていらして下さったMさん。
時には「儲けたい気あるの?」と言いながら、店を盛り上げて店に居ながらに宣伝して下さる。
Mさんが一言、ここのワインはこの値段なのにいかにすごいかを語ると、
他のお席からワインの注文が急に増え出す。
若くして成功なさっている方の人を惹きつけるエネルギーにはひたすら感心してしまう。
こんなに迫力のある人はなかなかいないし、いつも元気を頂けると共に、沢山のアイディアまで下さる
発想の素晴らしい方である。
そしてなぜそんなにも良くして下さるのかと思うほど、何度も足を運んで下さるSさん。
大のお得意様なのに一切お得意様風を吹かさない。いつも静かなユーモアを備えてにこやか。
僕もかみさんもSさんの厳しい表情を見たことがない。
今日は御機嫌が…と思ったことがない、表情からは何も察することができないので
ひたすら背筋が伸びる思いである。
いつもダンディな振る舞いに、すごい方ほど腰が低いのだということを目の当たりにする。
そんなお人柄に触れるたび、なかなかそうはできない僕の目標の方だと感じる。
そして僕はSさんが飽きることのないように献立を立て、新たな皿に挑む威力を頂いているのだ。
お客さんの顔を思い起こすと皆さん人柄の素晴らしい方ばかり、
ここに書ききれないほどのお手本となる方が沢山いらっしゃる。
皆先生ばかり、僕は生徒のように感じている。
沢山の思いやりを頂いているからこそ、料理だけを一生懸命していればいいわけではないと感じている。
人と人とのつながりこそが心を豊かにしてくれる。
そして心の豊かさがうまい味を作り出せることにつながると思う。
日々勉強、僕の修行が終わることはない。
先生方、これからもどうぞ御指導のほどよろしくお願い致します。