クリスマスが終われば、ささっと、正月の顔をしなければならない。
店内はもちろん、外の花の仕事を持つ私は、
25日のクリスマスディナーのメインディッシュをお出しする辺りから、
店内のクリスマスソングは耳に入ってこなくなり、
頭の中は「もういくつ寝るとお正月〜」が鳴り止まない。
最後のお客さまをお見送りすると、店中のクリスマス飾りを外し、
ヒムロ杉やジュニパーべりー、檜たちに、
「お疲れ様、ありがとう」と別れを告げる。
「捨てちゃうのですか?」とスタッフが、
そうだね。切ないが、新しい生命を持ってするのが、
クリスマスにしても、正月にしても大切なこと。
造花では意味がない。
そして、三脚をかつぎ、いざ神楽坂テラスビルへ、
毎年のことながら、飾るのは心躍ること、
片付けはその反対にあるが、リセットされるのは心地よい。
さあ、これから正月の準備が始まる。
とは言え、店の営業もまだまだ、忘年会のお客さまが控えている。
一年間を労う、12月のお席は楽しげだ。
その様子に活気づく。
そんな営業時間の、合間をみての準備期間。
12月は座ることのできるのは、食事時間の10分くらいのこと。
おせちの材料が入った箱が、日に日に外に積み上がってゆく。
厨房からは、シェフの叱咤激励が響く。
「おせちには、和食のすべてが入っている。
何度も何個も連続的にこなすと、飽きたころには、
上手くなっているから」と、
スタッフは、黙々とこなしていく。
今年の12月は冷える、2月並だという。
外での作業には堪える。
ただ一日だけ、恵みのような暖かい日があった。
松を飾る前に神が降りてこられたのか?!
ありがたい一日に、一気に畳み掛ける。
正月花を飾る上で、最も大切なのは清めることだ。
思えば、早稲田店を立ち上げた2004年の暮れのこと。
ご近所の”松下”さん、
こちらは早稲田の鶴巻町で日本料理店を営む大先輩。
顧客の方の中には有名な方もたくさんおられる。
店主である松下利市さんには、さまざまなアドバイスをいただき、
たいへんお世話になった。
年末のご挨拶に”松下”さんに向かった。
その日は大晦日の午前中、おせちの受け渡し時間にあたっていた。
次から次へと訪れるお客さまに、
私たちは中に入れずにいた。
ただ茫然とその光景をすこし遠くから眺めていた。
発した言葉は、
「すごいね・・・お客さんが、わざわざ取りにきてくれるんだ。」
「うん・・」
「・・・・・」
「葉歩花庭もそうなれたらいいのにね。」
あの時の気持ちを忘れることはない。
だから、うちのおせちを受け取りにいらして下さるお客様を
清々しい場でお迎えしたい。
床を磨き、ガラスを磨き、タイルを磨いて、植木を整える。
そして、ようやく正月花を玄関に供える。
長寿を願う松、難を転ずる南天、成長を意味する青竹、
最後に「ん」が付くのは運に通じるというので、きんかんを添えて、
ずいぶん欲張りね(笑)と思いながら、
最後に、年神様に鏡餅をお供えする。
先祖代々・・の橙々、
お披露目を表す昆布、昆布の古名は広布(ひろめ)という、
柿の数は、いつもニコニコ仲むつまじくと、
2個と2個と6個で10個を供える。
正月のひと品ひと品は、おせちも花も精神的なもの。
すべてを終え、お客さまを迎える準備が整った。
去りゆく年への感謝と、新たに迎える年への感謝を
お客さまに込めてごあいさつ。
お客さまは、取りに来てくださっている上に、
「徹夜なんでしょう!終わったから、ゆっくり休んで」なんて
どこまでも、おやさしい。
頭の下がる思いだ。
年のおわりにお世話になった方のお顔を拝見でき、
年のはじまりを、私たちの作ったおせちで祝っていただける、
なんて最良の日。
どうかみなさまに幸あれと
年のはじめに願いを込める。
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